俺のオヤジ

 俺のオヤジは66歳。しかし2年前、脳梗塞で倒れた。以来、俺を含めた家族を悩ませ続けている。なぜって? 「別人」になってしまったからだ。
 担当医師は「高次脳機能障害」と言っていたが、一言で括れるほど症状は均一ではなく、脳の問題なだけにタチが悪い。オヤジの場合、偏屈だった性格が一層偏屈になってしまった。しかも超ハイテンション。もはや誰の言うことも聞かない。面倒をかけ放しの母親に当り散らす。孫の成長なんてまるで興味ないらしく、ただ一人の内孫である俺の娘の七五三にも出てこなかった。
 彼の願いは仕事に復帰する、ただそれだけ。仕事といってもデスクワークではなく建設機械の操縦だから、絶対にムリ。噛んで含めるように諭してもダメ。ダメどころか、狂犬のようにわめき散らす始末。仮に運転できるとして、この建設不況、ロレツが回らずコミュニケーションが困難なジイさんに仕事を割り振ろうという奇特な人間がいるわけもない。
 病気だから仕方ないとはいえ……さすがに疲れますな。いや、母親のほうがもっと疲れているのだろうけれど。同居は物理的にムリなので、俺にできるのは毎月の仕送りとマメに電話を入れること、そしてときどき食事に連れ出すこと。あとは、深く考えないこと、かな。